2013年5月9日木曜日

村上春樹のピンクジン

村上春樹さん「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は随分売れているようですね。オクサマも新潟で読み耽っておりましたが、ハルコはまだ未読です。


今から32年も前に、出版社の連中と毎晩毎晩飲み歩いていた時代の話です。
新宿歌舞伎町のコマ劇場側のビルの地下に、「マスカレード」という店がありました。かなり大きなバーで、毎晩ここに集まっては荷物や鞄を置いて身軽になり、新宿ゴールデン街に飲みに行く。そしてまたマスカレードに戻ってきて飲み直す、という生活をしていたのですよ、若き日のハルコが。
しかし、マスカレードはオーナーが故郷に帰ることになり、閉店してしまいました。
それから飲み仲間達と、市ヶ谷から新宿までのたまり場になる店を捜そうと、毎晩店巡りをしたのです。
すると、千駄ヶ谷に良い店があるとの情報があり、揃って出かけました。
千駄ヶ谷駅から真っ直ぐに行き、確か三叉路の角の2階に目指す店があったのです。
本来はジャズ喫茶なのですが、バーカウンターがあり、お酒もたくさんの種類を置いてました。

その頃、マンガ雑誌『少年サンデー』の古谷三敏の「ダメおやじ」が人気で、メンバーも愛読していたのですが、このマンガの登場人物に「メガネさん」というキャラが出てくるのです。
いつもソフト帽にトレンチコートにサングラスという出で立ちで、ダメおやじに人生と酒の知識を教える人物で、後に古谷三敏の『Barレモンハート』に繋がる需要なキャラなのです(随分長く書いてますが、ご辛抱を)。
このメガネさんが、マンガの中で飲んでいたカクテルが「ピンクジン」だったので、千駄ヶ谷の店で「ピンクジンを下さい」とお願いしたのです。
ところが、どうもピンクジンが判らなかったようで、しばらくするとこの店のオーナーが現れました。
オーナーはカクテルブックを見ながら指示を出して、我々のテーブルにピンクジンが届きました。

ピンクジンは、グラスにアンゴスチュラビターを入れてグラスの内側に廻し、不要なアンゴスチュラビターを捨て、キリキリに冷えたジンを注ぐ、というシンプルなカクテルです。
皆でカウンターにいるオーナーに向けてグラスを持ち上げ、挨拶をしたのです。

千駄ヶ谷の店の名前は、オーナーの飼猫の名を取り「ピーター・キャット」と名付けられ、店にあるピアノにはルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」のチェシャ猫の置物が鎮座して静かにジャズが流れている店でした。

その店のオーナーの名は村上春樹さんなのです。
村上春樹さんは、1982年に店を譲って作家に専念する前年の頃の話です。

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