2014年6月27日金曜日

特別な1日だけのレストラン

携帯も無い、ネットも無い、食べログも無い、グルメガイドも無い。
そんな無い無い尽くしの時代の記憶を思い起こすのは難しいものです。
外の雨を観ながら、記憶は30年前に遡っていました。

時代はやっと街場にフランス料理店がぽつぽつ現れた頃、そんな中で高田馬場に「K」というイタリアンレストランがありました。
まだイタリア料理自体が珍しく、たまに通っていたのです。
ある日曜日、映画を観に行く前にこの「K」でランチをいただきました。
その日はいつもいる店長に替わり、初めてのホールスタッフが一人だけいたのです。昼にもかかわらず、他の客はおりませんでした。
食べたものはほとんど覚えていません。おそらく前菜とパスタに何かメインを頼んだのでしょう。ワインも少し飲んでいるはずです。

食後に、その1日しかいないホールの彼が「エップレッソ(この時代は珍しい)にサンブーカを入れましょうか?」と尋ねてきました。
「エスプレッソ・コン・サンブーカ」との初めての出会いでした。
エップレッソの香りに甘いサンブーカが重なり、午後のけだるさで気持ちが良くなりました。ハルコはすっかりサンブーカが気に入り、お替わりをしたようです。
店を出て、新宿の映画館でウディ・アレンの『カメレオンマン』のモノクロームの画面を、サンブーカの残り香を感じながら半覚半眠で観たのは夢の中のようでした。

その後、その日だけいたホールスタッフは二度と現れず、店も無くなりました。
人生で1回現れた、バッカス神の遣いだったのでしょうか。
記憶の中にある1日だけの特別なレストラン。

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